今季のコレクションは、デザイナーが自分自身のルーツを辿ることから始まった。インスピレーションが生まれたのは、彼の生まれ育った実家の押し入れの中。祝い事に大漁旗を贈る風習のある漁港の近くで育った母親の影響から、押し入れの荷物をその色とりどりの布地で纏めていた光景が、今回のワードローブを作るキーとなったようだ。
船や碇などマリンな空気に包まれたプリント柄が目立つ中で、最も印象的だったのが、大漁旗の絵柄をモチーフにしたフード付ジャケット。荒々しい波のプリントをあしらったその裾には、鮮やかなオレンジのラインをプラスしてアクティブなムードをプラス。また背面には、船の名前の代わりに、デザイナーの名前の一部「嘉」を大胆に配した、日本らしい遊び心が詰め込まれている。
洋服にあしらわれたディテールもまた、今季のコレクションを語る上で欠かせない。真っ白なジャケットの随所に、生地を四方から摘まむようにして結ばれたそのディテールは、大漁旗を“風呂敷”代わりとして荷物を包んでいた動作を受け継ぎ生まれたもの。“結ぶ”ことで現れた生地と生地の隙間からは、ジャケットの下に差し込んだパープルのカットソーが顔を出し、真っ白な布地にアクセントを与えている。
漁港で働く男たちのユニフォームのディテールを落とし込んだワードローブも登場。船の必需品“編”目模様をあしらったトップスやフード付きのイエローのタンクトップには、フィッシャーマンベストの特徴となるフラップポケットを配置。またコレクションに登場する長ズボンの多くには、その裾にジップや伸縮性に長けたゴムがあしらわれていて、動きやすい機能面が重視されていることもうかがえる。
マリン柄のセットアップと合わせた端正なシルエットのジャケットにも、海から生まれたアイディアでギミックをきかせた。鋭利なカッティングが特徴のスリーブは、実は漁師たちが起源とされる“入れ墨”をイメージして作られたもの。中にグラフィカルなシャツをレイヤードすることで、アームから絵柄が入れ墨のように浮かび上がる仕掛けが施されている。